その二 福岡「豚骨チャンポン」の旨い店3傑
先日、来福した友人をもてなした際、当然のように“飲んだシメに豚骨注入”という流れになった。毎回こういうシーンは腕がなる。間違いない豚骨ラーメン店に案内し、「旨いっしょ!?」と、したり顔をする準備をしていたのだが、友人がより食いついたのは、ラーメンの二番手として頼んだチャンポンの方(それも嬉しいのだけど)。聞けば、チャンポンはたまに啜るが、豚骨ベースの濃厚濃密なものは初めてで、感動モノの味わいだったという。
「なるほど」――私にとって、ちょいとした気付きであった。もちろん、ラーメン店のチャンポンも食べ込んでいる。どっしりとした豚骨主体のチャンポンの魅力もよく分かる。しかしながら、チャンポンといえばやはり長崎のイメージが強いだけに、こと福岡を訪れた客人には薦めてこなかった。どちらかというと、何回か足を運んだラーメン店で、たまに変化をつけたい時に頼むという感じ。とはいっても地元民も「あのラーメン店ではチャンポンしか食べない」と根強いファンが多いのも事実。
“豚骨チャンポン”も、しっかりと博多らしさを感じてもらえる名物かもしれない。
友人の好反応をみて改めてそう思ったわけだ。そこで今回は、豚骨チャンポンの旨い店福岡3選の紹介といこう。豚骨の名門“ちゃん系”ヒストリーも含んでいるので、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
ラーメンありきのチャンポンか。チャンポンありきのラーメンか。
本連載「豚骨注入!」は毎回マニアックな部分まで掘り下げている。チャンポンに関しては、明治期の長崎まで遡り、名前の由来とされている北京語の“吃飯”(シャポン)の説明からといきたいところだが、本題“豚骨チャンポン”に至るまで10シリーズくらいになりそう(笑)なのでまた別の機会に。ただ、長崎と福岡のチャンポンの理解を深めるために、これだけはいわせていただきたい。
福岡のチャンポンはラーメンありきのスープ。
長崎のラーメンはチャンポンありきのスープ。
である。ややこしいけど。
チャンポンは聖地・長崎も含め一般的に鶏ガラが主のスープが基本。昔ながらの長崎の食堂では、圧倒的名物であるチャンポンの鶏ガラスープでサブの位置付けのラーメンも作るため、いわゆる白濁タイプではなく、茶褐色醤油ラーメンのような一杯が多い(福岡にある「長崎亭」もそのような類)。
一方、福岡ではその逆。メインのラーメンのスープでチャンポンを作るわけであるから、必然的に白濁した豚骨ベースとなる(「安全食堂」「西谷家」「Shin-Shin」などなど)。
要するに何がいいたいのかというと……
この量の豚骨を使うチャンポンだけに味わいにパンチがある!
そして…
名豚骨店に名チャンポンあり!!
ということ(まわりくどかったが)。
てなわけで、お待たせしました! 私的に激プッシュの“豚骨チャンポン” 3杯を紹介する。どれも身震いするほど旨いぞ!
1日5食限定。福岡豚骨No.1と呼び声の高い名店のチャンポン
「江ちゃんラーメン」
ラーメンファンだけでなく、多数のラーメン店主も「あそこは旨い!」と唸る、隠れた名店が福岡市・原「江ちゃんラーメン」。
まずは、同店も含む通称“ちゃん系”の系譜を説明しておこう。総本山的な存在が福岡市・田隈(百道より移転)「ふくちゃんラーメン」。先代の父から継いだ、名うてのラーメン職人・榊伸一郎さんが切り盛りする超人気店だ。先代時代の弟子「冨ちゃんラーメン」(福岡市・飯倉)、若手の門下生「なおちゃんラーメン」(福岡県・糸島市ほか)、「しゅうちゃんラーメン」(大分県・中津市)、そして、伸一郎さんの2人の姉、美子さん夫婦が出した「ふくちゃんラーメン英美」(福岡県・宗像市)、伸江さんが迎える「江ちゃんラーメン」。福岡の豚骨ラバーは、これらを総称して“ちゃん系”と呼ぶ。
その歴史は1975年、福岡市・百道から始まる。起点となった“ふくちゃん”の屋号は、榊伸一郎さんの伯父にあたる創業者の福吉さんに由来し、父・順伸さんと母・美恵子さんが、そのままの屋号で引き継いだのは1980年のこと。他界した順伸さんはラーメン界で伝説になっている人である。袖をまくった腕にはビタビタと貼られたサロン●ス。タバコを噛みしめながらラーメンを作り、気に入らない客は容赦なく怒鳴り飛ばす。しかし、百道時代を知るものは愛着を込めて「何よりラーメンが劇的に旨かった」と振り返る。時は、よかトピア(アジア太平洋博覧会、1989年開催)の会場整備の頃。百道周辺に多くの工事関係者が集まっていたことも追い風となり「ふくちゃんラーメン」は地域きっての行列店へとなった。
“孤高のラーメン職人”。先代・榊順伸さんの面影は息子・伸一郎さん(「ふくちゃんラーメン」現店主)と2人の娘・美子さん(「ふくちゃんラーメン英美」)、伸江さん(「江ちゃんラーメン」)に受け継がれている。中でも、次女・伸江さんの職人としての“男気”は父を彷彿とさせる、と往年のファンは目を細める。彼女はとてもサバサバした性格で歯に衣着せぬ物言い。「自分の好きなラーメンを出しているだけですけど、何か?」的な真っ直ぐで飾らないスタンスがとても気持ちがいい。
ちなみに「ふくちゃんラーメン」は2004〜2009年に、「新横浜ラーメン博物館」にも出していた。当時の館長・岩岡さんもふくちゃんに惚れ抜いた一人で、何度も福岡まで足を運び実現した出店であったのだが、その際ラー博店をまかされていたのが、現在の「江ちゃんラーメン」の伸江さんである。
日本屈指のフードテーマパークにいた頃、1日に何百玉とこなしていた伸江さん。その彼女がカウンター目の前の客に向き合い、年齢や顔色などを見ながらさりげなく脂、塩分の調整をして出してくれる。
スープは豚頭のみを使用。煮込み時間、濃度の異なる2つの寸胴のスープを合わせ、香りが花開くタイミングでラードを入れる。“熟成”“フレッシュ”の2種のスープのバランスが良く、塩気も絶妙。ふくよかな甘味、軽やかな飲み口も持ち味である。
同豚骨スープで作るチャンポンは、百道時代のメニューを復刻したもの。チャンポン麺は1日5玉しか仕入れないため、開店してすぐに訪れないと食べられない。中華鍋で炒めた野菜の甘さと香ばしさが芳醇な豚骨スープに染み出し、よりまろやかな味わいに。「石橋製麺」の太めのチャンポン麺にも旨味がしっかりと染み込んでいる。チャンポンは売り切れ必至のメニューだが、ラーメンは20時まで食べられるのでご安心を。
江ちゃんラーメン
住所 :
福岡市早良区原3-10-16
電話 :
092-843-8238
営業時間 :
11:30〜20:00
休み :
水曜
席数 :
12席
駐車場 :
なし
博多ラーメンの細麺を合わせた“チャンメン”と焼き飯も必食 「塩原いってつ」
南警察署近くにある「塩原いってつ」は、博多ラーメンと焼き飯人気の高い店。店主の森下和年さん(1957年福岡市出身)は、幼い頃から長浜屋台に親しんで育ち、18歳からラーメンの道へ。「ガンソ」(=元祖長浜屋)や「一心亭」など名店で修業を積み、2001年に自身の店を福岡市・塩原に開業した。
古の長浜ラーメンの作り方を踏襲しながらも、より上質な豚骨を選び、部位も配分もしっかり数値化。雑味や臭みが出ないようより丁寧にスープを取ることをモットーとしている。
「豚頭5kg、くるぶし15kg、背骨10kg、皮5kb、背脂5kgが研究の末、辿り着いた配分。
1〜3番スープまで取り、状態を見極めながらブレンドしています」(森下店主)
スープはあっさりとした味の中にも深いコクがある。カエシには福岡・志免町「フジマサ醤油」を使用。豚骨スープの旨味を見事に引き出し、ほのかな甘味を添える。
麺は老舗製麺所「真鍋製麺」の細ストレートを取り寄せ、沸きの早い灯油ボイラーの茹で釜を使用。泳がせて、ざる網で湯切りをする。クルリ、クルリと麺を宙に舞わせるスタイルだ。
塩原いってつ
住所 :
福岡市南区塩原3-22-27
電話 :
092-541-6800
営業時間 :
11:00〜23:00
休み :
火曜
駐車場 :
8台
チャンポン麺にねっとりと絡む濃厚濃密豚骨
「博多らーめん・ちゃんぽん ひるとよる」
福岡の中心地・大名で翌3:00まで営業と使い勝手が良く、「博多らしいラーメンを食べたい」という来福客をよく連れていくのが同店。間違いない味なのはもちろんのこと、焼き鳥はじめ一品料理も豊富で、一軒で〆のラーメンまで啜れることが重宝している。
店主の松屋綱善さん(愛称:ツナちゃん。1983年福岡市出身)も、多くの博多っ子がそうであるようにガンソ(=元祖長浜屋)がソウルフード。幼い頃に父とよく啜りに行く、まさに日常に寄り添うラーメンであった。
「16歳の時、ガンソでアルバイトを始めたんです。理由は、家から近かったのと、お金を貯めてバイクを買いたかったから。軽い気持ちだったんですが、それから今までどっぷりとラーメンの世界に浸ることになりましたね」(松屋さん)
思い返せば、ラーメンのキャリアをガンソからスタートした松屋さんは、22歳の時運命的な出会いを果たす。それが、天神屈指の人気店「博多らーめんShin-Shin」店主・中牟田信一さんである。
「客としてShin-Shinに行った時、ラーメンの味に惚れたということはもちろん、直感的に“ここで働きたい”と感じるものがありました。すぐに信さん(=中牟田信一さん)にお願いしたのですが、当時まだShin-Shinは1店舗しかなく、従業員も充実していたから断られたんです。それでも諦めきれなかったので再度お願いして、ようやく入店が許されました」。
(松屋さん)
その後、10年間Shin-Shinで働き、同店が躍進を遂げる一翼を担った松屋さん。
2017年に満を辞して自身の店「博多らーめん・ちゃんぽん ひるとよる」を開いた。
屋号には、昼も夜もラーメン、チャンポンを啜って欲しい、との思いを込めている。
基本となるスープは豚骨メインで鶏も少々。まろやかでクリーミーな口当たりに仕上げる。ラーメンは細麺(修業先のShin-Shinよりは少し太め)、チャンポンは太くしっかりとしたもので、共に「真鍋製麺」から取り寄せたもの。
ラーメン、チャンポンともに、松屋流のオリジナリティを加えている。
「チャンポンは中華鍋で素材を炒め豚骨スープを投入。旨味が凝縮したスープを麺にも吸わせます。白濁スープが鍋の中で油とともに再乳化して、とろりとしたコクが出るんですよ」(松屋さん)
博多らーめん・ちゃんぽん ひるとよる
住所 :
福岡市中央区大名2-2-41
電話 :
092-713-2008
営業時間 :
11:00〜翌3:00
休み :
日曜
席数 :
26席
駐車場 :
なし
今回は、「豚骨チャンポン」にスポットを当てた。紹介した3店は、どこもラーメン一本でも十分やっていける実力派。“中華鍋を振る”“材料を別に仕入れる”と、決して効率のよくないチャンポンをラーメンと合わせて出してくれているのは、大将たちの心意気にほかならない。カンカンカンッ!と厨房から響く、中華鍋の音も楽しみながら、濃厚濃密「豚骨チャンポン」を堪能してほしい。
編集後記
豚骨ラーメンはなんとなくジャンキーで、チャンポンになると一気にヘルシーなイメージになる。野菜あり、なしが関係しているのはもちろんですが、同じスープでこうも印象が違うから不思議で
す。私は、箸が立つほど超こってりの豚骨ラーメンを食べても、食後の罪悪感はないのですが(笑)。